微粒子の電子顕微鏡写真
実際に灰が場外に出ていることを確かめるために処分場周辺で粒子を捕獲して調べてみました。
自治体による微粒子調査の実際
空気中に浮遊する微粒子については、すでに各自治体がその発生を抑える目的で発生源を突き止めるための調査をしています。それは空気中の微粒子を吸い込むと気道や肺の奥の細かい肺胞という組織まで入り込みそこに蓄えられるため、その粒子が有毒かどうかとは関係なく呼吸器に障害をおこすからです。このため大気汚染防止法により直径が10μ以下の微粒子を浮遊粒子状物質として、その粒子が空気中に一定量以下になるような環境基準が定められています。しかし実際にはこの基準を達成している自治体が少ないのが現状です。
現在自治体が行っている方法は多数の微粒子を捕獲してその元素成分を評価し、これらの微粒子が代表的な発生源の中からどの程度排出されているかをを予測するものです。
これに対して今回私たちがおこなった方法は捕獲した微粒子全体の成分ではなく、微粒子一つづつの元素成分を測定して排出源を予測する方法をとりました。以下に今回の調査の目的とその具体的な方法を示します。
1.目的
処分場外で捕らえた微粒子の中に処分場から飛散した粒子があることの確認
2.方法
1.捕獲の方法
今回私たちの採った捕獲の方法は、
- 堆積法
- 落ちてきた微粒子を炭素紛入り両面テープで捕らえる。
- スメアー法
- 葉のうえなどに積もった微粒子を炭素紛入り両面テープに貼りつける。
- インピンジャー法
- 注射器などで空気を一定量吸い込み炭素紛入り両面テープに吹き付ける。
- 吸引法
- ろ紙のついた吸引ポンプ(ハイボリュウムエアーサンプラー)のろ紙の上に炭素両面テープを押しつけて粒子を付着させる。
2.捕獲の範囲
- 処分場外縁部
- 処分場外縁部周辺植物
- 処分場周辺地域民家
- 多摩吹、秋川上流地域
- サンプルとして構成自治体焼却灰
3.分析の方法
- 電子顕微鏡による粒子確認、
- X線エネルギースペクトル解析による元素分析
3.評価の方法
発生源別粒子の元素組成サンプルを参照して粒子の発生源を特定する。
自治体が行っている浮遊粒子状物質の代表的発生源の寄与度を特定するために用いられる、海塩粒子,土壌粒子、自動車排出粒子,石油燃焼(油燃ボイラー)粉塵,廃棄物焼却炉煤煙、のサンプルデータ-を参照しながら,最終的に構成自治体焼却灰のデータとの比較により処分場からの灰か否かの判定をした。この判定に当り
- まず粒子状物質の生成過程の相違に応じて粒子の大きさが違ってくることを利用して、発生源を絞り込むという一般原則を適用した。
- つぎに粒子の化学組成と、浮遊粒子状物質の主要発生源別サンプルの化学組成を比較して発生源を特定する。
4.結論
- 粒子の大きさが発生源に関連するという一般原則から、あらかじめ対象粒子の大きさを2ミクロン以下のものに限定しました。このことで自然発生源の粒子、海塩粒子および土壌粒子は除かれました。採取した粒子で2ミクロン以下の個々の粒子の化学組成を分析しました。その分析結果を主要発生源および二ツ塚処分場に持ち込まれている焼却灰の化学組成と比較しました。その結果処分場外で捕獲した粒子の中には処分場から飛散したとみなされた粒子が見られました。
- 実際に処分場に持ちこまれてくる焼却灰はさまざまな物質の燃えかすであるために、それぞれの粒子の組成は多様なものでした。まずこれらの粒子がどこから来たかを評価するためには、焼却灰の組成の傾向を知ることが必要であり、焼却灰の個々のデータを集計しました。その結果今回調べた個々のデータはそれぞれの特色を持ちながらも,大枠の中では集計した焼却灰の傾向に沿っていることがわかりました。
- 一方焼却灰の元素の組成は他の粒子,たとえば自動車から排出されるものや石油燃焼(油燃ボイラー)などとは明らかに違った傾向を示しています。
- 最後に私たちは今回調べた粒子の中に処分場から飛散した粒子であるのかどうかを検討しました。この検討に当たってごみの組成の多様性と時代によるごみ質や燃焼法の変化にも着目しました。そこで焼却炉からの文献データよりも実際に二ツ塚処分場に運びこまれてきているいくつかの焼却炉の灰の分析をしてそのデータと比較参照しました。その結果処分場から飛散する粒子には特徴的傾向があり,結論として多くの粒子は処分場からの粒子ではないかということになりました。
今回観察した粒子はきわめて狭い範囲(2.5mm×6mm)で捕獲され、電子顕微鏡により、さらに狭い範囲(0.1mm×0.1 mm)を観察したにもかかわらず処分場からの粒子が見つけられました。このことから実際にはかなり大量の焼却灰の飛散が考えられます。現在このことを定量的に評価するために吸引による灰の捕獲及び分析を急いでいます。
5.評価・分析の結果
粒子状物質の生成過程の相違に応じた粒子の大きさの違いを利用する発生源の絞り込み
空気中に浮遊する粒子は発生過程の違いで一次粒子と2次粒子に分類できる。一次粒子は「燃料およびその他、物の燃焼に伴って発生する粒子」や「物の破砕、選別その他の機械的処理、又は、堆積に伴って発生、飛散する粒子」などがあり粒子の大きさの違いから、前者は「ばいじん」といわれ(焼却灰はここに含まれる)ディーゼル排気粒子で2ミクロン以下の粒子、後者は「粉じん」といわれ(海塩粒子や土壌粒子はここに含まれる)区別される。
粒子の化学組成と浮遊粒子状物質の主要発生源別サンプルの化学組成の比較による発生源の特定
粒子の大きさの限定により、代表的発生源のうち海塩粒子と土壌粒子は対処から外れる。したがって化学組成の比較段階では、残りの自動車排出粒子,石油燃焼(油燃ボイラー)粉じん,廃棄物焼却炉ばいじんが対象になる。まず自動車排出粒子と石油燃焼(油燃ボイラー)粉じんと処分場周辺で捕獲した粒子を比較した。元素組成を比較すると自動車排出粒子と石油燃焼(油燃ボイラー)粉じんはカリウム(K)やカルシウム(CA)の濃度がほとんどなく炭素(C)がかなりある。一方処分場周辺で捕獲した粒子のサンプルの中にはカリウム(K)やカルシウム(CA)がある程度あり、逆に炭素(C)はほとんどない粒子が見つかっている。(下グラフ参照)
さて残ったものは二ツ塚処分場に持ちこまれた焼却灰との比較である。廃棄物焼却のばいじんに対する寄与度を算定する時に指標とする元素は、各自治体によって違いがあるがカリウム(K)やカルシウム(CA)が一般的に使われている。そこでこれらの元素に注目しつつ他の元素も参照してみた。ごみの組成がさまざまなこともありぴったり一致するものはなかったが傾向が一致しているものは多く見つかった。(上グラフ参照)カルシウムは最近焼却場で塩化水素対策のために排ガスにカルシウム化合物をかなり入れるようである。カリウムは生ごみや紙などの植物系のごみに含まれているが生ごみの堆肥化や古紙の再製により以前より減っているようである。