田村市大越町バイオマス発電事業稼働による周辺放射性物質汚染の調査報告【2022年1月】

概要

福島県田村市大越町は、福島第一原子力発電所のほぼ真西に位置するため事故の影響を比較的受けない地域であった。そのため事故以降、宅地と農地は除染されずに放置されてきた。
しかし福島県は70%が森林を占めているため、森林汚染の除染が積み残されてきた。その除染促進のために汚染木を伐採し、バイオマス発電という事業を農林環境整備交付金という助成金をつけて、県外で目立たないように推進されててきた。
しかし、汚染木を県外で処理するコストの関係もあり、大越の主産業であるたばこ栽培の衰退、セメント産業の撤退などの影響もあり、ついに県内のしかも汚染の比較的少なかった田村市大越町に白羽の矢が立った。
再汚染を危惧する住民の反対を押し切って昨年4月から本格稼働を始めた。2019年9月より、大越町の住民は原告旧市長を被告に裁判を起こしている。

地形と地質の特徴と調査

大越地域が海底で堆積した大変古い地層が隆起し、紡錘形をした老年期を迎えた比較的なだらかな阿武隈山地の中にあるため、花崗岩質による自然放射能やセシウムを引きつけることと「この地域の地層の表層が風化花崗岩主体であり、河川水中の有機物濃度やカルシウム濃度は低く、粘土鉱物と腐植物質の複合体は生成しにくいため、放射性セシウムは懸濁粒子に吸着されやすいと考えられる。」(資料:公益法人森林文化協会)
すなわち、この地域の河川水にはセシウムが溶けにくいことが予測される点で大気中及び水質放射能測定での考慮が必要。

調査の目的

☆ 田村バイオマス発電から発生する粉塵の周辺地域の大気放射能汚染と河川への水質汚染の実証。
☆ 調査データを基に地域住民の継続的低線量内部被ばく健康被害と農業用水汚染による農産物汚染のリスクを予測する。

調査結果

リネン布による大越バイオマス発電周辺の放射能(Cs137)汚染調査3期結果比較 2021.8.2~11.15 2021.11.15~12.18 2022.5.15~9.18

リネン吸着法による成果と期待

これまで検出限界以下の場所が多かったが、季節による風向きなどを考慮し汚染濃度の高そうな場所をバイオマス施設からの汚染が、大越町のメインストリートの中でも施設からの距離より標高の低い場所が高いことが分かり、汚染が低地特に河川に近い通学路で最も高いことが分かった。標高が低いほど濃縮する当初予測した局地気象による汚染のメカニズムが実証された。

リネン吸着法による成果と今後の課題

☆課題:現在3回の測定結果を見ると、それぞれ18ヵ所中8ヵ所、 18ヵ所中4ヵ所18ヵ所中5か所しかデータが得られていない。その原因は、大越地域が海底で堆積した大変古い地層が隆起し、紡錘形をした老年期を迎えた比較的なだらかな阿武隈山地の中にあるため、バイオマスからの粉塵が、広域に分散するために検出下限値以下になりやすい。⇒リネン布の設置時間などを洗い直し地域全域の汚染分布が得られる測定を検討する。
☆ 課題:汚染が低いこと(検出下限以下)持続的低線量の内部被ばくがもたらす健康被害は無視できない。チェルノブイリなどの文献等で確認する。

リネン吸着法による水質汚染調査結果

今回の水質調査は、懸濁粒子を捕まえられるリネンの性質を利用して水に3日ほど晒す方法である。多摩川流域の汚染調査で実績を持つ方法である。

産業団地集水地下流と、施設からの汚水が直接つながっている公共下水道処理場の処理水が直接注がれる下流と、大滝根川の上流3か所に設置をした。結果は、公共下水道処理水が注がれない上流が最も高く、その次に産業団地からの排水が集まる白石川であった。この結果は、①バイオマス汚染水は、直接産業団地集水地に流されている。②大滝根川上流が、施設から見ると上流の白石川よりも高かったことは、白石川から牧野川に流れ込み大越町を流れ隣町の船引町で大滝根川に合流するまでに、10kmほどある流域で、バイオマス施設からの大気汚染が河川汚染を引き起こしたためと考えられる。③公共下水には施設からの汚染水が流されていないことも明らかになった。④今後の調査としては、「大越の環境を守る会」が提供していただいた大越町を流れる牧野川から農業用水に流れ込むいくつかの堰での水質調査と大越の水道水源の河川調査を行う。⑤牧野川と大滝根川が合流した後三春ダムに流れ込み、郡山市や三春町の水道水源・農業用水に使われているためその近辺の水質調査が必要になる。

空間線量率測定の課題と長期的観察の必要性

☆大越地区の原発による汚染が比較的少なかったために
①住宅、農地が除染されていないため空間線量率が事故当時の地表の汚染を拾っていることで、施設稼働前から0.08μSv/h程度と通常汚染レベルがそこそこ高いためと
②さらにバイオ施設からの汚染が広範囲に広がるなだらかな地形である
③住宅の敷地周辺にセシウムを強く吸着する花崗岩に砂利や風化砂があるための影響が交絡する。
④以上のことからバイオ施設からの汚染に影響を空間線量率で確認するためには、今少しの長いスパンの調査が必要であると思われる。

タイトルとURLをコピーしました