講演「人間生活と地下水汚染」瀬戸昌之先生 2017年11月5日

講師:東京農工大名誉教授 瀬戸昌之先生
2017年11月5日 竹林舎

水の汚染ってなんだろう? 
きれいな水とは?

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もっとも汚染されていない水ということでは、蒸留水である。
(筆者注:前日の渡辺先生のワークショップで伺ったのだが、蒸留水のpHは本来は中性ゆえにpHは7であるべきなのだが、直ぐに空気中の二酸化炭素(1988年で350ppm だったのが、2016年では400ppmを超えた)を吸収するので、pH5~6の酸性になるとのこと。しかしその飽和溶解濃度はというと0.5ppm程度である。また余計なことながら、酸素は8ppm程度。これは空気中の酸素の重さの1/33 程しかないので、魚のえらは動物の肺よりも33倍も酸素取り込みの効率がよいといえる)

その意味で水を汚すのは、ミネラル(二酸化炭素も無機質)と有機物がある。
無機質は電気伝導度で計測できる。単位はμS/cm で表す。このSは科学者のジーメンスの個人名ゆえに、大文字で表記する。
有機物は、COD (化学的酸素要求量Chemical Oxygen Demand) で表す。有機物は BOD (生物化学的酸素要求量 Biochemical Oxygen Demand) の指標もあるが、これは分析に一週間程もかかるらしい。

谷戸沢の埋立処分場から滲出してくるごみ汁について
処分場建設前は、電気伝導率 μS/cm は50~100μS/cm 、塩化物イオンは ND (検出されず)、BOD も ND と、きわめて清澄であった。それが 1998 年の埋立完了時には、電気伝導率 μS/cm は1,380μS/cm 、塩化物イオンは 295 mg/l 、BOD は 1.8 mg/l と極めて高くなった。これは僅か厚さ 1.5 mm の遮水シートでは気休め以外の何の役にも立たずに、22haもの面積がある埋め立てられた処分場の底面が、ズタズタに破断されていることの動かぬ証拠である。その周辺の地下水の電気伝導率は 400~700 μS/cmであり、埋立完了から17年が経過した 2015 年のデータでは、電気伝導率 μS/cm は 571μS/cm 、塩化物イオンは52 mg/l 、BOD 、有機物はこの期間に微生物で分解されて ND となっているが、しかし周辺の地下水の電気伝導率は依然として 300~450 μS/cmを保っている。ち
なみに、都市の下水の電気伝導率もその程度である。この17年間に、東京都の年降水量は 1,500 mm なので、降雨量の高さは26 メートルにも達する。面積は22haもあるので、その17年間の降水量となると、12億6千万トンもの水(日本のダムの総量が200億トンとのこと。黒部ダムが2億トンゆえ、その6倍の水量)で17年の歳月で洗い流しても、未だに下水の水質並みに汚濁しているのが現実である。つまり、地下水は、いったん汚すと長期間経っても、清澄には戻らないのである

塩化物イオンの由来は何からであろうか?
人間の生活ごみには塩化ナトリウムも含まれるのは当然だか、塩ビ製品の焼却残渣にも、一部はダイオキシンという化合物で含まれている。

東京農工大学の府中キャンパスの井戸がトリクロロエチレン(環境基準値は 0.03 mgl/l)により汚染されていることが発覚した。この原因としては 2km 西に位置する東芝府中工場であることは疑いようがないが、結局、未だに国も東芝もその因果関係を認めてはいない。当時、辣腕工場長がいて、全国の工場でもみ消し工作に暗躍したらしい。トリクロロエチレンの類は、家電製品やドライクリーニングの洗浄剤として利用されている。極めて安定性が高く、微生物などでも分解されずに半永久的に環境に残留し、発がん性、白血病、心疾患などを引き起こす毒性が指摘されている始末に負えないものである。

何故、トリクロロエチレンなどは危険なのか。それを構成する塩素や、フッ素、臭素、ヨウ素などのハロゲン族は極めて(化学)反応性が強く、アルカリ塩を形成する。塩素が結合したダイオキシンとなると、それはフラットな形状をしていて、細胞の DNA の螺旋構造を剃刀のようにスパッと切ってしまうゆえに人体にとっても、染色体異常や発ガン性を起こす危険な物質であるらしい。

農業(化学肥料)による硝酸汚染
各務ケ原のにんじん栽培に大量の窒素肥料が投入されて、地下水のNO3濃度が基準を超えた。結局は窒素肥料投入を減らしても、にんじんの収量には変化がないことが判明している。
アンモニア肥料、亜硝酸 NO2は即効性があり、尿素肥料は遅効性。
過剰な化学肥料の窒素 N に土中の微生物が働き、酸素と結合して、亜硝酸となる。また飲食物中の硝酸態窒素は、腸内細菌によって亜硝酸となり、これは血中のヘモグロビンと容易に結合して、酸素結合を阻害し、メトヘモグロビン血症となり、呼吸障害を起こすことになる。十二指腸の障害も起こすらしい。亜硝酸の環境基準は N 値で 10 ppm 以下であることとなっている。官能では亜硝酸の濃度は感知しにくいものだが、ベトナムのメコンデルタの河口に深い井戸を掘って、きれいな水が湧いてきたので喜んだものの、その土地の心ある住民でが直感で『この水は変だ!』と指摘し、分析したところ、亜硝酸が窒素値で 100mg/l
もの数値であったとのこと。生物としての人間の直感は捨てがたいものがある。

水源はダムの水か地下水、どちらがよいのだろうか?

東京都の水道供給量(保有水源)は日量約700万トンもあり、最大給水量は456万トン、そしてそれは年々減少傾向にある。さらに都は多摩地区の地下水も40万トンも取水しているのにも拘わらず、それは不安定として水源に含めていない。

地下水は、井戸を整えれば、大地震などでインフラが破壊されても、東京都などの水道網のように巨大装置とはことなり、人力でも利用することが可能で、ミニマムのライフ・ライン足り得る。まさに SMALL IS BEAUTIFUL!なのに、自然の恵みなのに社会の体制は、これを無視している。何故だろう、おかしい。

井戸、地下水の重要性は、3.11の放射性物質の降下の危機のときも、ヨウ素汚染は見られなかった。

災害時こそ頼りになる、地下水を利用して整えるべきことは、災害対策や環境面からだけではなく、農業面でも、森林の国土保全においても、経済面でも重要であるのに。

『地下水に思いを巡らすこと』は、その科学的切り口から、社会、経済、政治、技術、そしてあるべき継続可能な我々の生活にまで思いが及ぶ。それは普通の人、市民が科学していくことで、地道な生活を担保するものに展開していき、本当の民主主義を裏打ちさへするものではないだろうか。

『科学』を身近な例題で、簡単に誰にでも判りやすく説明して、市民に教えて、一緒に考えてくれる科学者こそ本物であることは、メコンデルタの住民のように、直感で嗅ぎ当てることが出来る。

文責:古澤

▼竹林舎での水質調査 2017年11月5日

<たまあじさいの会「お知らせ」(2018年1月)より>

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