エコセメント製造施設による放射能汚染と被爆リスクと汚染された国【市民環境問題講演会】梶山正三 2013.3.10

「エコセメント製造施設による放射能汚染と被爆リスクと汚染された国」

講師:梶山正三先生(エコセメント訴訟担当弁護士) 講演要旨

科学者で弁護士でもある梶山先生は、福島原発事故で放出された放射性物質がエコセメント工場によりさらに大気へ、多摩川水系に拡散され、それは人体に内部被爆を引き起こすメカニズムをマクロの見方で解明し、それがいかに危険なこと(発がん性)かを、続いてゲノム理論(遺伝子レベル)とチェルノブイリ事故の27年後の検証を踏まえて低線量被爆でも晩発性の発ガンリスクがあることを、詳細且つ膨大なデータに基づきに説明される。講演の一部にはたいへん専門的で難解な内容も含みつつも、初めから終わりまで全力投球、一球も遊ばない直球勝負ばかりで、途中休憩を挟んで合計90数分の講演であった。講演の内容もさることながら、問題をその正面から捉えられる姿勢の正しさ、途切れることのない集中力、弛むことのない迫力をもたらす精神力、それを生み出す強靭な肉体(ご健康そのものに見受けられます)の持ち主であることに驚愕し、我と同じホモ・サピエンスなのにと嫉妬と羨望を覚えつつも、全く別人種に遭遇したような印象を受け、新たな世界を垣間見ることができ感動した勉強会でした。

福島原発事故をマクロ的視点で捉える
福島第二は6基の原発があり、合計500万KWの発電能力があった。そこでは一日にウラン7キロ、年間で2,555kgを使用していた。これは広島型原爆の2,555発分に相当する。この災禍でセシウウム137は広島型原爆の168発分もが既に環境に放出されている。揮発性が高く、半減期が8日と短いヨウ素131は 1.1 x 10(17乗) という恐ろしい量であった。

エコセメント製造施設による拡散
放射能汚染は福島原発事故だけに留まらない。我々の社会のお目出度いところは、行政を担う環境省は基準を甘くし(放射能汚染特措法)、その害毒を処理し閉じ込める名目で、さらに引っ張り出してエコセメント工場でご丁寧に、バグフィルタ濾しに、排ガスから煤塵を大気中に放出し(当局発表のデータでも、一日あたり最低でも6,812,194立米)、排水は一日に(昨年秋時点で)セシュウムだけでも1億5450Bqもの放射性物質を含む排水のほとんどが、結果的に多摩川に放流されている。施設からエコセメント製造時に漏れ出る、あるいは勢い良く排出される放射性物質以外で、本来エコセメントに封じ込められる放射能も、形を変えて環境をところ構わず(より悪質に)広範囲に汚染して行くのだから行政当局は、環境省ではなく、環境汚染省と巷間で侮蔑されている所以である。

放射性物質の性質と低線量・内部被爆の危険性
放射線にはα線(プルトニユウム)、β線(ヨウ素、セシユウム)、γ線(コバルト等)があり、その射程距離は空気中において、それぞれ80ミクロン(電子線)、2ミリ(電子線)、60メートル(電磁波)がある。この性質を理解すると、プルトニユウムについては、直接に接触するか、体内に入れない限り害はない。外部被爆の破壊力は、α線<β線<γ線 となり、逆に内部被爆の破壊力はα線>β線>γ線 となる。被爆線量をシーベルトの単位で表現するが、内部被爆量への換算の計算式は、等価線量とか、換算係数とか、組織荷重係数とかの何をどう起用するか議論が定まっていないところもあるらしく、実効線量をシーベルトで表すのにその換算係数も人体の組織・臓器によって何をもって正確かと一概には言えないところがあるらしい。低線量被爆となるとさらに難しいところがあり、生涯被爆量を10ミリシーベルト以下とし、年では(自然被爆線量に上乗せの分で)1ミリシーベルトとしているのが妥当かどうか、リスクモデルをめぐる疑問がある。(詳しくはLNT仮説、しきい値仮説、ペトカウ効果などの考え方、その実証性について) 固形がんの発生率を示すLSSという指標があるが、これは戦後の広島・長崎の被爆者、原発作業従事者など12万人を対象にアメリカを中心として信頼性の高い調査がある。人間が発ガンするリスクが50%、ガン死を30%として、そのリスクが何倍になるかを被爆量(Sv)を横軸に算出したものである。図表では、0.2SvでLSSの相対リスクが1.2に到達し、それ以降は横這いの傾向を示している(正比例の直線ではなく、急激に上昇カーブがかかり、ある地点からは横這いすることが、ペトカウ効果)。リスクが1.2倍ならば、発ガンリスクが60%、ガン死が36%となり、看過せるものではない。被爆リスクモデルにはICRPの直線モデルや、ある程度のしきいを越してから発現するとする、しきい値モデル(日本政府、電気事業連合会)やECRR(欧州放射線リスク委員会)が採用している2相モデル(ペトカウ効果を反映したもの)がある。ある東大の先生が猫や犬にプルトニユウムを投与したところ、ガン死しないのでプルトニウムの内部被爆は問題ないと結論してるようだが、犬・猫の寿命はせいぜい15年程度である。人間の場合は80年以上の寿命があるゆえ、晩発障害の恐れを考慮しない暴論である。

内部被爆とゲノム破壊、晩発障害
放射性物質は、物理的半減期があり、体内に入ると代謝されるゆえに代謝半減期を考慮しての、有効半減期があるが、体内での動きが全て解明されているわけではない。しかし発ガンのメカニズムが被爆により遺伝子レベルで、遺伝子の修復機能のエラーを増やし、発ガン抑制物質の生成に異常を起こすことなど、ゲノムレベルで判ってきている。セシユウムは膀胱内で代謝されたものが、再度尿道で吸収されたりを繰り返す場合もある。甲状腺ガンでは7q11ゲノムに複製ミスの3コピーを頻発することが判っている。低い被爆量でも、血管造影剤に使用されたトロトラストによる晩発障害が明らかになっている。ウクライナではチェルノブイリ以前はほとんど存在しなかった若年者層の甲状腺ガンが、10万人当たり既に600人を超える異常な事態となり、ウクライナ国立放射線医学研究センターの調査によると、30年前は慢性疾患を訴える人は20%程だったものが、近年は80%以上と、恐ろしい結果となっている。福島原発から如何に多量の放射性物質が放出されたか、事故以降、5ヶ月経ってもヨウ素131がある程度検出されていることからチェルノブイリから推定して、これから晩発性障害が多発してもおかしくない。相変わらず現場の空間線量が高いことを考えると、土壌除染ではなく、隔離する方向を考えなければいけない事態であろう。他国の、他人の不幸の事例を自国民の参考データとして利用するのはたいへん悲しいことであるが、かような厳然たる事実を直視しようとせずに目を逸らしている。それが、かような原発の大惨事を引き起こし、広島・長崎の被爆国である当事者であるのにも関らず、晩発障害の危険性に有効な対策を取ろうとしないのは、恐ろしいまでの想像力の欠如と、歴史に学ぼうとしないことと同様である。それとも未だに人間本位の政策を取ったことのない当局に対して何かを期待をするのは、これまでに国が幾多となくなしてきた無責任な政策や棄民が真実である以上、歴史に学ぼうとしないのは『市民』の方なのかもしれない。

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